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どうして脳は、些細な記憶を、万一のときに備えてため込むのか [海外メディア記事]

 久しぶりに、『ニュ-ヨーク・タイムズ』紙のBENEDICT CAREY氏による科学ネタを。


 「どうして脳は、些細(ささい)な記憶を、万一のときに備えてため込むのか? 」というタイトルだが、私は、珍しく、本文を読む前に、もうこの問いに対する答えを用意できていた。つまり、ある経験が些細かどうか、言いかえれば、重要かそうでないかは、現在の経験からだけでは決めることができないから、というのがその答え。

 人間の生は、体操競技の平均台に喩(たと)えることができる。もっともあれほど窮屈なものである必要はないのだが。それでもいつ何時、不意打ちを喰らって平均台から落下するか判ったものではない。生物としてのヒトの進化の過程のほぼ99㌫は、そうした危険と隣りあわせだったに違いない。そうした危険を察知するシステムは、人間の存在の奥深くに根ざしているはずなので、どれほど平和な人生であっても、脳は、落下という可能的事態に備えて監視する事を止めない。そのために、どんなちょっとした逸脱現象であっても、記憶に格納しておこうとするのである(おそらくは、無意識的に)。それが重要になる(かもしれない)ときに備えて。

 われわれの日常は、単調な平均台の上の歩みのように見えるが、実は、その歩みの最中に、こうした格納(上書き保存)と忘却(デリート)の作業が絶えず行なわれている。 以下の記事は、こうしたプロセスにおいて、ある感情と結びついた記憶がとくに保存されることを最近の実験が示した、という内容である。
 




How the Brain Stores Trivial Memories, Just in Case

By BENEDICT CAREY JAN. 21, 2015

http://www.nytimes.com/2015/01/22/health/study-shows-brain-stores-seemingly-trivial-memories-just-in-case.html



「  どうして脳は、些細な記憶を、万一のときに備えてため込むのか


 感情の高まりとともに、恥ずかしかった記憶、勝利感に満ちた記憶、がっかりした記憶があざやかに蘇ることがあるが、そうした感情が過去に遡り記憶を強化し、そのときはただ過ぎ去った一見つまらないものだったものが、振り返ってみると重要なものに見えてくる、ということがあることが新たな研究によって判明した。



 水曜日『ネイチャー』誌に発表された報告書によると、テレビで探偵が決まってする質問 ――「殺人の前の日に何か変わった振る舞いがありませんでしたか? ――は脳についてのしっかりした知見に基づいたものであるようだ。

 この発見は記憶についての現在支配的な理論にもフィットするものである。その理論によれば、記憶とは、どんな知識が将来重要になるかにしたがってたえずアップデートされる適応のプロセスなのである。


 新たな研究によると、人間の記憶は、実は、万一のときに備えるファイルなのであり、一見どうでもいいと思われる光景や音や観察事項を、やがてそれらが役に立つときのために備えて、しばらくの間、冷凍保存しておくものなのである。


 この実験は、トラウマの働きについては何も語っていない。トラウマは記憶を予測不能な仕方で具体化するものだからである。むしろ、この実験は、日常生活のさまざまな刺激を再現しようと目指すものだった。この研究は、わずかな電気ショックを使って不安を産み出し、その感情が以前に見た写真の記憶にどのような影響を及ぼすかを測定した。



 
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研究チームのリーダーであるジョゼフ・ダンスモア(Joseph Dunsmoor)と記憶研究で使われたパブロフ的な恐怖条件づけマシーン( Pavlovian fear conditioning machine )。



  以前の研究で、研究者たちは、遡及的統合( retroactive consolidation)と呼ばれる、この記憶の効果が動物やヒトにもあることの多くの証拠を見い出した。新しい研究は、この効果が、それに関連する重要な情報に選択的に適用されることを示したのである。


 「この研究は、具体的な遡及的強化があることの強力な証拠を提供します」。そう述べるのは、ハーバード大学の心理学教授であるダニエル
・L・シャクター( Daniel L. Schacter)。教授はこの研究に参加しなかった。「この研究結果は、われわれがヒトの内に以前に発見したものの先を行くものです」。


 彼は(他の専門家と同様に)、遡及的統合の詳細はまだ明瞭であることから程遠いと注意していた。ある感情的経験がどんな過去の記憶を呼び戻すか、それはどれほどまで過去に遡るのか、またそれが詳細を抑圧することがあるのかどうか、それはまだ誰にも判っていない。専門家によれば、記憶は、それが脳内にコード化されたときは、まだ固定化されておらず、それ以降の出来事によって弱まることもあれば、強化されることもあるのだという。


 ニューヨーク大学で行われた研究には、いくつかのステージがあった。最初のステージでは、119人の参加者がコンピュータの前に座り、スクロールしていく写真を眺め、それぞれの写真を道具(ハンマー、のこぎり、はしご)か、動物(馬、ワシ、カンガルー)かに分類していった。彼らは、決まった順序もなく、道具を写した30枚の写真と動物を写した30枚の写真を目にすることになった。


 5分後、男女の参加者はまたコンピュータの前に座らされたが、今度は一方の手首に電極線が取りつけられていた。認知神経科学の研究員ジョゼフ・ダンスモアが率いる研究チームは、参加者一人一人にあった衝撃レベルを決めていた。それは不快ではあったが苦痛を与えるほどではなかった。参加者たちは、ランダムな順序で繰り出される新たな60枚の写真、30枚は道具の写真で、30枚は動物の写真を分類していった。グループの半分は、動物の写真を目にするほとんどの場合に電気ショックを与えられ、もう半分のグループは、道具の写真を目にするほとんどの場合に電気ショックを与えられた。


 研究チームは、参加者に抜き打ちテストを行い、彼らがどれほどよくすべての写真(とくに、最初の実験の写真)を記憶しているかを測定した。結果は、参加者がテストをいつ受けたかで変わった。

 すぐにテストを受けた人は、動物も道具も同じくらい記憶していた。電気ショックは明白な効果をもたらさなかった。しかし、6時間後あるいは一日後に抜き打ちテストを受けた人は、電気ショックを与えられたカテゴリーの方を約7%以上も多く思い出した。たとえば、道具の写真を見たときに電気ショックを受けた人は、道具の写真のほうをたくさん覚えていたのである。

  
 「脳内にコード化された時点では、つまらないものに思われたものでも、それに電気ショックが加わって感情的な経験が形成されると、それらのものの記憶が強化されたり保存されたりするのです」とダンスモア博士はインタビューで述べた。「少なくとも、数時間後あるいは一日後にテストが行われたときは、そういう結果になりました」。…


 遡及的強化が起こるには時間がかかるのは事実だが――すぐに実験を行った人に遡及的強化があるのはどうかは不明だった――、どれくらいの間があればその強化が現われるかはハッキリしなかった。

 「それが私には最も驚くべき発見でしたね。記憶の強化が、われわれがまだ理解していない何らかの統合プロセスに依存しているということがね」とシャクター博士は述べた。

 
 この発見は、それが与える回答と(少なくとも)同じくらいの問いを提起する。この「万一に備えて」のモードの記憶がどれくらい続くのか? 弱すぎて統合されないものもあるのか? たいして重要でないものでも、多少強化されたり――または弱められたりするものもあるのか? そして、ためになる経験も同じように過去の詳細を強化するのだろうか? 

 その答えをテレビの探偵ならば知りたがるだろうが、科学者だって同じなのだ。「これらすべての問いは、これからの研究課題です」とダンスモア博士は述べた。





」(おわり)













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