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妄想とは何か (3) [探求]

  スタンフォード大学の「哲学百科事典(Stanford Encyclopedia of Philosophy)」の「妄想(Delusion)」の項目を紹介する第三回目。今回は「妄想に対する理論的アプローチ(Theoretical Approaches to Delusion)」。基本的に単純なことを述べているはずだが、「予測エラー理論」のことろは、説明不足のために理解が難しい(というか、不可能に近い)。それに関係する部分は読み飛ばした方がよいと思う。



Delusion

First published Wed Sep 16, 2009; substantive revision Fri Oct 11, 2013

By Lisa Bortolotti 

http://plato.stanford.edu/entries/delusion/





「  妄想 (3)


 
  3.妄想に対する理論的アプローチ

   

 妄想形成に対してはいくつかの理論的アプローチがあるが、 それらは、異常な経験、推論の偏り、神経心理的欠陥、動機づけの要因、予測の間違いなどに言及することで妄想の表面的特徴を説明しようとするが、しかしながら、妄想の行為への現れ方を記述したりその病因を再構成するという課題は、妄想の形式と内容の両方に見いだされる多種多様さのおかげで困難なものとなっている。


 機能的妄想と器質的妄想との区別が広く受け入れられていた時は、機能的妄想は主として精神力動的要因に基づいて説明されていたのに対して、器質的妄想は主として神経心理学的に説明されていた。妄想状態の形成における経験的研究の現在の段階では、妄想はすべて神経心理学的な欠陥によるものであり、そこに動機づけの要因が含まれることもある、ということが定説になっている。




3.1 妄想についての神経心理学的説明と精神力動的説明



 精神力動的説明によると、神経生物学的な欠陥が存在する必要はなく、妄想はもっぱら動機づけの要因によってひきおこされる。例えば、迫害妄想は低い自尊感情と抑ウツから自分を守るために生じるものであり、ネガティブな事象を自分自身とよりも悪意を持つ他者に帰することによっておこる、とされる。妄想は防衛のメカニズムの一部なのだという。カプグラ妄想のような妄想も、精神力動的に解釈される。自分の父親が、父親そっくりの赤の他人に置き換えられたと若い女性が信じるのは、父親に対する性的欲求を社会的に異論の余地の少ないものとするためだというのである。こう考えるならば、妄想は不安と罪悪感を減らすという働きを持つことになるだろう。カプグラ妄想の精神力動的説明は、カプグラ妄想を持つ人々を特徴づけその顔の認識システムに影響を及ぼす脳の損傷に関する最近の発見に基づいて、厳しい批判を浴びた。防衛的あるいは自我感情を高める役割を果たすとみなされる別の妄想(例えば、迫害妄想や病態失認やエロトマニアなど)ついての精神力動的説明は、今でもとても人気がある。



 妄想についての神経心理学的説明は、脳の損傷を受けた部位や、損傷と妄想形成の因果的つながりをある程度正確に特定できるので、ある種の妄想についてはとても満足のいく説明を提供してくれる。別の妄想--「機能的」とかつてはみなされていた妄想--についての神経心理学的説明も研究がすすめられている。ある種の妄想に対しては、ハイブリッドな説明が提起され、(動機づけを含む)様々な要因の組み合わせが妄想の形成に少なからず寄与しているとされる(e.g. McKay et al. 2007)。その一つのケースが逆オセロ症候群(Reverse Othello Syndrome)であるように思われる。その症候群は、配偶者や恋人の心がもう離れて行ってしまっているのに、まだ愛は続いているという妄想である。この信念は、パートナーの不実を認めると引き起こされる苦しみに対する防衛と見なしうるのである( McKay et al. 2005a, p. 313で引用・議論されている Butler 2000の例を参照)。


 よく知られた神経心理学的説明によると、妄想は認識の失敗の結果であり、その結果は場合によって異常な知覚の経験となることもある(Maher 1974)。この異常な経験は、推論の偏りのようなもっと穏やかな失調を伴うこともある(Garety and Freeman 1999; Garety et al. 2001)。仮説の評価の欠陥を含む、知覚や認識のある種の側面が異常を来すこともある(Langdon and Coltheart 2000)。予測のコード化の失敗という側面もある(Fletcher and Frith 2009; Corlett et al. 2010)。



 二要素理論(two-factor theory )の枠組みでは、異常な出来事が妄想の形成の原因とされる。自分の父親がペテン師に置き換わったと考える若い女性は、見慣れた顔に対して自動的に生ずる反応が減ってしまい、そのことが自分の前にいる男性の顔を父親の顔として認識する能力に影響を及ぼすために、その顔が父親の顔と同じ(またはほとんど同じ)だと判断することができても、この信念を形成してしまうというのである。しかしこの異常な出来事(自動的反応の低下)は、妄想の形成の原因となる唯一の要因ではない。親しい人がペテン師に置き換わったという考えがどうして異常な出来事を説明するもっともらしい原因として採用されるのかという点を説明するためには、仮説の評価のレベルでの欠陥を指摘したり(Coltheart2007)、属性付与やデータ収集における大幅な偏りが存在すること(例えば、限られた証拠に基づいて「一挙に結論へと高飛びしてしまう」傾向)を指摘する必要がある(Garety and Freeman 1999)。 



 予測エラー理論(prediction-error theory)によると、経験には諸々の予期が形成されるものであり、その予期に反する出来事に対してはより一層大きな注意が向けられる。予期されるものと実際に与えられる情報との間にあるギャップが、学習の重要な部分をなすとされる。予期が満たされないとき、予測のエラーがコード化され、それに従って世界の表象がアップデートされる。特別な意味を与えられた出来事が起こったせいで(精神病では、ドーパミンの失調のおかげで)、現実についての現在の(正しい)信念がアップデートされると、予測のエラーのシグナルが発信されなくなる。自分の父親の姿を見て、いつも生ずる自動的反応が得られない女性は、予期されない出来事を経験しているのであり、このことが予測のエラーを生み出す。そのシグナルに対する反応が、予期されない出来事の説明を試みることなのである(「あの男性は私の父親ではない!」)。このことが妄想の形成という結果になるのだという(Corleett et al.2007)。 

 


 3.2 妄想のトップ・ダウン理論vsボトム・アップ理論


 妄想についての哲学的文献で導入され発展してきた別の区別はトップ・ダウン理論とボトム・アップ理論の区別であるが、そうしたレッテルが指示しているのは、妄想の形成における経験と信念の因果関係の方向なのである。ボトム・アップ理論は、因果的説明の方向は経験から信念に向かうと主張する。トップ・ダウン理論は、因果的説明の方向が信念から経験に向かうと主張する。誰もがこの区別を有益だと見なしているわけではないことに注意されたい。たとえば、Hohwy and Rosenberg (2005) や Hohwy (2004)によると、妄想の形成がトップ・ダウンのプロセスもボトム・アップのプロセスもともに含むのであれば、この区別は、予測エラー理論が提唱する枠組みでは、アピールする力を失ってしまうことになる。知覚のシグナルが加工され普通でない経験を生み出す仕方に影響を及ぼすのは、その人のこれまでの予期である。普通でない経験は現実検討を経てさらなる解釈を受けた後で、妄想的信念の形成の中心的要因となるのである。



 ボトム・アップの理論家にとって、妄想は、器質的失調のおかげで「奇妙な経験」によって引き起こされる信念体系の変容を含む (Bayne and Pacherie 2004a; Davies et al. 2001)。たとえば、私は人々が不審と敵意の念をもって私を眺めているという経験をまずもち、その結果として、彼らが私に危害を加えたいと思っているという仮説を形成するのである。また、姉の顔を見たとき何か変な感じがまずして、その結果として、私は自分が見ている人物が実は姉ではなくペテン師だと思うに至るのである。


 「妄想的信念の直近の原因はきわめて普通でない経験である」(Bayne and Pacherie 2004a, p. 2)。



 トップ・ダウンの理論家は同じ例について何と言うだろうか?  私は人々が私に危害を加えたいと思っているとまず信じ、その結果として、私は彼らが私を悪意をもって見ていると知覚するのであり、私の姉にほとんど同じように見える人が姉にとってかわったとまず私は信じるのであり、その結果として、私の姉だと言い張る人が、私には、私の姉のようには見えなくなるのである。妄想形成についてのトップ・ダウンのテーゼが提起されたのは、とくに、カプグラ妄想のような単一主題の妄想に対してであったり(Campbell 2001; Eilan 2000)、自分の思考や行動に外部から影響を及ぼすものがあるという受動性の妄想に対してである(Sass 1994; Graham and Stephens 1994; Stephens and Graham 2000)。



 「妄想は、患者の根本的な信念の中でトップ・ダウンに生ずる障害なのであって、それが結果的に経験や行動に影響を及ぼすことにもなる」(Campbell 2001, p. 89)



 しかし、トップ・ダウン理論もボトム・アップ理論もともに難問に直面するのである。トップ・ダウンの理論家は、信念がどこからきて、なぜそれがこれほど上手く知覚経験に影響を及ぼすのかという点を説明する必要があるのに対して、ボトム・アップの理論家は、なぜ人々が自分の普通でない経験を説明するのに奇妙な仮説を支持しようとするのか、もっと有りそうな仮説が利用できるというのに、という点を説明するように求められるのである。

 

 ボトム・アップ理論の陣営内では、さらなる考え方の相違が成り立っている。ある人々にとって、妄想的信念が経験を説明する(explain)と言うのが正しいとされる。別の人々は、妄想は経験を支持するもの(endorsement)だと主張する。「説明」を重視する派によると(Maher 1999; Stone and Young 1997)、経験の内容は妄想の内容よりも曖昧なものであるし、妄想は経験を説明する潜在的候補の一つという役割を果たしているという。たとえば、カプグラ妄想での経験とは、誰かが私の姉によく似ているが私の姉ではないという経験である。妄想は、その女性が姉によく似ているが、その顔が私には奇妙に感じられるという事実に対する一つの説明になっている。だから、その女性はペテン師でなくてはならないのだ。迫害における経験とは、ある人々が敵意をもっているという経験であり、だから迫害妄想は、なぜ彼らが敵意をもっているように見えるのかの説明になっている。だから彼らは私に危害を加えようという意図をもっているのである。同じ経験は違う仕方で(妄想的仮説に何ら頼ることなく)説明できたかもしれないのだが、この説はその点を不問に付している。



 ライバルとなる説、「支持」を重視する説によると(Bayne and Pacherie 2004a; Pacherie et al. 2006)、経験の内容は、妄想の内容と同じくらい概念的に豊かである。妄想は経験を説明するものではなく、経験を支持するものなのである。経験の内容は事実ある通りに受け取られ信じられている。カプグラ妄想の経験は、ある女性が私の姉のようにみえるが、実はペテン師だというものだ。その経験が支持されるとき、それは、私の姉がペテン師にとってかわられたという妄想的信念になる。迫害妄想の経験は、人々が私に危害を加えようという意図をもっているという経験であり、その経験が支持されるとき、それは、その人々が私に危害を加えようと望んでいるという迫害妄想的信念になるのである。



 ボトム・アップ理論のどちらのヴァージョンも、妄想が意識的経験で始まること、あるいはむしろ、その内容がある人にとって生つ命されうる、あるいは支持されうるものとして利用できる経験で始まることを含んでいるように思われる。しかし、Coltheart (2005b) の主張によれば、典型的ケースにおいて、妄想形成のプロセスは、当人が自覚していない出来事で始まるのである(たとえば、自動的な反応の欠如)。




 3.3 妄想形成の一要因論、二要因論、予測エラー理論


  妄想的信念が経験に由来するとしても、なぜ妄想的仮説の方が、もっと有りそうでもっともらしい仮説よりも好まれるのか、あるいは、なぜ経験の内容があまりありそうに見えないしもっともらしくも思えないにもかかわらず支持されるのか。この異論にはいくつかの答えがあり、それが妄想形成についての競合する理論を生み出してきた。ボトム・アップの理論家の意見は、普通ではない経験が妄想の形成に十分であると考える人々と(一要因論)、普通ではない経験は妄想形成の一つの要因にすぎないと考える人々に分けることができる(二要因論)。
   
  一要因論の一部の理論家にとって(Maher 1974)、妄想とは、経験の奇妙さに対して与えられる合理的な仮説なのである (Hohwy and Rosenberg 2005)・・・・。しかし、一要因論の別の理論家 (e.g. Gerrans 2002a) は、妄想的仮説をはっきり述べることは合理的であるかもしれないが、その反証となる証拠があるにもかかわらずそれを主張するのは合理的ではない、と主張する。二要因論の理論家にとって(Davies et al. 2001; Stone and Young 1997)、妄想は、困惑させる経験や失敗した予測を説明するために形成されるが、そうした経験や失敗した予測が存在すれば妄想が形成されるのに十分であるというわけではないとされる。妄想的仮説の形成の原因となるメカニズムは、推論の偏りや欠陥の影響を受けなければならない。この理論を最近発展させたものとしては、 Aimola Davies and Davies 2009, Coltheart et al2010, Davies and Egan 2013を挙げておこう。


 すると、妄想をもつ人々においては推論が損なわれているかどうかについては主として三つの立場があることになる。(1)推論はまったく損なわれていないか、一見損なわれているように見えるのは、推論の能力が制限されているというよりも、パフォーマンスのエラーのおかげであるする。(2)推論は、仮説の評価に欠陥があるために、場合によっては推論の偏りがあるおかげで、損なわれているのだとする。(3)推論が損なわれるのは、ひとえに推論に偏りがあるためであるとする。妄想をもつ人々においてはある種の推論スタイルが優越していたり推論の偏りがあることが集中的に研究対象とされてきたが、利用できるデータからは、それら三つのオプションのどれか一つに優先権を与えることはできないように思われるのである。現在の理論の発展段階では、ある推論の「間違い」が能力上の失敗のせいなのか、パフォーマンス上の失敗のおかげなのかを確定したり、仮説の評価システムの内にどんなプロセスが含まれているかを具体的に見極めるのは困難である。


 単一主題的妄想に言及して、マックス・コルザートは妄想の形成に含まれる二つの主要要素を次のように説明する。


 a. 患者に新たな(そして間違ったデータ)を提供する第一の神経心理学的損傷が存在し、そして形成される妄想的信念が、もしそれが正しければ、こうしたデータを説明してくれる信念となる。この損傷がいかなるものであるかは、患者ごとに異なる。


b. 第二の、信念の評価システムに関わる、神経心理学的損傷があり、その損傷があるために、患者は新たに形成される信念を拒絶することができない(たとえ、それを反証する証拠がたくさんあるとしても、である)。この損傷は、単一主題の妄想をもつあらゆる人々において同一である(Coltheart 2005b, p. 154)。


  Davies et al. (2001)や Coltheart (2007)では、二番目の要素の方がより詳しく記述されている。まず、経験を説明するものとして、あるいは経験の内容を支持するものとして役立つ仮説の生成がある。第二に、その仮説が利用できる証拠によって支えられることもないし、当人の背景的信念と照らし合わせてもありそうもないようなときでも、その仮説を拒絶することができないという失敗がある――そうした失敗は、たぶん、前頭葉右半球のダメージのせいであるだろう。最後に、仮説が受け入れられ、そこに注意が向けられ、報告されるが、反証となるものが現われるたびにさらなる(個人的レベルの)評価に付されることができる。仮説は、支持されると、より一層もっともらしく、よりいっそう蓋然的で説明力があるものと見なされる。妄想の神経心理学のこの影響力のある考え方は、信念形成の一般的メカニズム(つまり、仮説の生成と評価)に訴えかけるものであり、妄想をもつ人々は「仮説検証の非-最適な戦略」をもつという見解 (Kihlstrom and Hoyt 1988, p. 96) にも、こうした最適ではない戦略が右半球に対するダメージによって引き起こされたものであるというテーゼ (Ramachandran and Blakeslee 1998)とも両立する。


  同様のストーリーは、多重主題の妄想や、自己欺瞞や、普通の人間にある妄想のようなエピソードに対しても語られているが、そうしたケースでは、単一の欠陥が報告された信念の根源のところにあることも考えられる(McKay et al. 2005a)。経験に由来する情報は、仮説の生成に影響を与える注意やデータ収集にある偏りのおかげであったり、動機にある強力な要因のおかげで間違って解釈される。


 妄想形成についての予測エラー理論は、妄想の臆見的本性に結びつけられていなかったり、妄想と知覚的錯覚の類似性に焦点を合わせているという点で、二要因論と異なっている。妄想の形成に寄与する推論上の特定の欠陥がある必要はないが、予測エラーのコード化が壊れている――正確な信念が改正され、不正確なものとなる――必要はある。一要因論と二要因論のいずれを選ぶかは、知覚と推論のはっきりとした区別に依存している。妄想に対する予測エラー的アプローチは、この区別がつけがたい――もっとも典型的な知覚の過程でさえも予測に基づいているのだから――ような構造があるという前提をしいている。



 
  



」(つづく)





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