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錯覚の科学 [海外メディア記事]

前回に続き科学ネタを。

 マジシャンが使うテクニックに科学者が注目して、科学的目的のために応用していることを紹介した『ニューヨーク・タイムズ』の記事。

 それによって引き出される結論は、われわれの脳内イメージがいかに錯覚に支配されているかという哲学的なもの。黒澤明の『羅生門』への言及があるのも面白い。


 マジックは奥が深い。ちょっと勉強してみようかという気もちになるが、「リテンション・ヴァニッシュ」のような基本の技ですら上手に行うのは一生無理だろうな。



The Science of Illusion

By ALEX STONE
Published: June 22, 2012

http://www.nytimes.com/2012/06/24/opinion/sunday/your-brain-on-a-magic-trick.html




 錯覚の科学  


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  右手の親指と人差し指でコインの端をつまんで、放すことなく、左手の手のひらに置いてみよう。左手の指を閉じてみよう。コインが見えなくなった瞬間、右手の残りの三本の指を伸ばして密かにコインを回収しよう。左手で――まるでコインを握っているかのように――握りこぶしを作りながら、右手はコインを隠しもったまま脇の方に下げておこう。


 これは、マジシャンが「リテンション・ヴァニッシュ(retention vanish)」と呼ぶパフォーマンスだ(http://www.youtube.com/watch?v=_dbgCtnFCZg)。コインが一方の手から他方の手に移動するかのように見せるトリックだが、これは、残像(persistence of vision: 視覚像が消失せずに残ること)と呼ばれる、脳が運動を知覚するときに生ずるズレを利用しているのだ。パフォーマンスが上手ければ、観る者は、両手が別れた後のほんのわずかの間は、コインが左手にあるように見てしまうのである。


 こうした奇妙な残像は、刺激因(ここではコイン)がもはや存在しなくなっても、視覚ニューロンは発火(firing)を止めないという事実に由来している。その結果、私たちの現実の知覚は、約100分の1秒だけ現実から遅れることになるのである。


 マジシャンは長い間こうした認知的な偏りを自分の有利になるように利用してきたのだが、近年では科学者がマジシャンの後を追いかけ、マジシャンのレパートリーから技術を借りようとしているのだ。ただし人をけむに巻くためにではなく、その技術を研究するためにである。マジックは科学者が注目するに相応しいツールに見えないかもしれないが、それはすでに広く引用されている結果をいくつか生みだしている。選択盲(choice blindness)――自分で決定したことなのに、その結果を評価するときに、決定したという意識をもっていないこと――に関する研究を考えてみよう。


 ある研究では、2種類のジャムの味についてのブラインド・テイストで、買い物客は、自分が良いと思った方を選ぶように求められる。彼らは、自分が選んだジャムをもう一度味わうように求められる。研究者は、二度目の味見の前に、買い物客に知られないように、違う味のジャムに換えるのだ。容器は二つに分かれている瓶で、その両端でふたが開くようになっていて、反対側には別のジャムを入れておけるような秘密の仕切りが取り付けてある――この原理は無数のショーガールを二つに切断するために用いられてきたものだ。こんなトリックは上手く行かないように見えるが、ほとんどの人は自分が選ばなかったジャムの味見をしていることに気がつかないのである。たとえその二つの味が、グレープフルーツとシナモン-アップルのように、かなり違っている場合であっても、気がつかないのである。



 これに関連した実験は、実験参加者に、一組の女性の顔を示して、どちらを魅力的だと思うかという質問をした。その後で、自分が選んだ顔をもっとじっと見てほしいと求めた。実は、研究者はその顔写真を「魅力的ではない顔」の写真に換えているのだ。やはり、このちょっとしたペテンにほとんどの人は気がつかなかった。そればかりか、なぜこちらを選んだのかを正当化するように求められると、このペテンに引っかかった人たちは、かなり詳しく事後的な正当化をひねり出したのである。


 こうしたトリックが示唆しているのは、私たちが自分の意思決定の結果にしばしば盲目であるということだ。選択が一たび行われると、その意志決定を飾り立てるように歴史を書き換える傾向が私たちの心にはあって、この事実はマジシャンが何世紀にもわたって利用してきたものなのだ。「あれかこれかという選択肢があなたに与えられると、あなたは自分がこれまで自由に振る舞ってきたと思ってしまうのです」。二人組のマジシャン「ペン・アンド・テラー(Penn and Teller)」のテラーは『スミソニアン・マガジン』誌にそう述べている。「これは人間の心理に関するあらゆる秘密の中でも最も解明されていない秘密の一つです」。



 マジシャンが日ごろ利用する別の解明されていない人間心理の秘密は――連続的なシーンの中に変化を検出できない――変化盲(change blindness)である。最も見事な証明の一つは心理学者のダニエル・シモンズ(Daniel Simons)が行った実験で、そこで彼は実験参加者に路上でたまたま出会った赤の他人を呼び止めて方角を尋ねさせた。


 会話の途中で、一組のサクラが彼らの間に入り込み視野を遮っているあいだに、実験参加者はサクラの一人と場所を入れ替えた。数秒後、あの赤の他人は全くの別人に話しかけていたのだが――奇妙にも、ほとんどの人はそのことに気がつかなかった。



 こうした認知的な不調に対応する神経の活動はどのようなものか? 一つのありうる答えは、実験参加者に対して立て続けに二つの顔を見せる、いわゆる「顔テスト(face test)」の研究から得られる。通常ならば、ほとんど誰でも、0.5秒でも顔を見せられれば、その識別はできるのだ。しかし数を数えるという作業や光の点滅などで気が散ってしまうと、複数の顔が同じに見えるようになるのだ。


 だが、面白くなるのはここなのだ。科学者たちは、磁場を用いて脳の局所領域の活動を遮断する経頭蓋磁気刺激装置(transcranial magnetic stimulator: T.M.S. )と呼ばれるマシンで、変化盲を引き起こす方法を見い出した。ある実験では、頭頂葉皮質に混乱を与えるためにT.M.S.が使われた。頭頂葉皮質は注意力をコントロールする領域である。それから被験者に顔テストを受けさせた。マシンをオフにすると、被験者の成績は良くなった。しかし、T.M.S.がオンだと、ほとんどの人はテストでしくじってしまうのだった。結論は何か? 注意力が逸れると皮質の一部が働かなくなるということだ。



 こうした盲点は、多くの哲学者が長い間怪しいとにらんできたことを裏書きするものだ。それは、現実と私たちの現実の知覚とは、しばしば信じられているよりはるかに大きい程度で釣り合っていない、ということである。一見忠実であるように見えて、私たちの頭にある映像は、矛盾していたり信頼できない情報からつなぎ合わされた『羅生門』の物語りのようなものだ。それは、ある程度、錯覚なのである。




」(おわり)











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