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体内細菌を育成する(1) [海外メディア記事]

 人間の身体を一つの生態系と捉えて、そこから得られる洞察を医療に活かそうとする「医療生態学(medical ecology)」という最先端の分野の現状を伝える『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事を紹介する。原文は二ページに分かれているので、二回に分けて紹介する。

 7~8年前に、地球環境からゲノムのレベルの事象をすべて「共生(symbiosis)」という観点で捉える書物を読んだことがある。それは「共生進化」の考え方とガイア理論の統合を模索する本だったのだが、まだまだ模索段階という感じだった。しかし、いやいや、そのある部分は既にこうして立派な研究分野に発展しつつあるのだなあ、と少し驚かされる。


 抽象性の高い記事だが、身体というわれわれにとって最も身近なもののメカニズムに関係しているので、実は、誰もが関心を寄せるべきことだ(が、誰も真剣には考えない)。しかし、こういう記事が、『ニューヨーク・タイムズ』紙の全記事の人気ランキング(MOST E-MAILED)の第1位だったりする所に、この新聞の読者層の質が現われている(と思うが、実は別に理由があるかもしれない)。





Tending the Body’s Microbial Garden
By CARL ZIMMER
Published: June 18, 2012


http://www.nytimes.com/2012/06/19/science/studies-of-human-microbiome-yield-new-insights.html





     体内細菌の庭を育成する(1)



 一世紀もの間、医師たちは、抗生物質を武器として使用しながら、細菌に対する戦いを繰り広げてきた。しかし、100兆個もの細菌――それらはミクロビオーム(microbiome)という総称で知られている――について科学者が詳しく知るにつれて、その関係は変化しつつあるのだ。


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 「細菌と闘うという言葉遣いはもうやめにしたいですね」。そう述べるのは、米国立ヒトゲノム研究所の上級研究員のジュリー・セグリ(Julie Segre)。「そんな語り方をするのは、私たちと共進化してきた、そして今でも私たちの体の健康を維持してくれているすべての細菌に対する仕打ちなのです」。


 健康に対するこの新しいアプローチは、医療生態学(medical ecology)として知られている。無差別に虐殺を行うより、セグリ博士や似た考えの科学者たちは、細菌を野生動物のように維持・管理したいと考えているのだ。


 誰もすぐに抗生物質を放棄したいと思っているわけではない。しかし、私たちの体の内側や外側に目に見えない生態系を育てることによって、医師たちは感染症と戦う他の方法を見つけられるかもしれないと考えている、しかも有害な副作用が少ない方法を。ミクロビオームを育成することが、肥満や糖尿病といった細菌とは何の関係もないように見える疾患の治療に役立つかもしれない、と彼らは考えているのだ。


 
 「一刻も早く、これが大きな科学の一分野になって欲しいんです」。そう述べるのは、カリフォルニア大学の微生物学者で、専門誌『サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(Science Translational Medicine)』に今月掲載される医療生態学のマニフェストを執筆したマイケル・A.フィッシュバック(Michael A. Fischbach)。


 私たちの体内の生態系に関して最近おびただしい発見がなされていることから判断すると、そのことが実際起こっているようなのだ。先週、セグリ博士と約200人もの科学者は、人間のミクロビオームについてのこれまでで最も野心的な調査報告書を公表した。「ヒューマン・ミクロビオーム・プロジェクト(Human Microbiome Project)」という名前のその調査は、242人の健康な人々に対して2年間にわたって行われた追跡調査に基づいたものだ。科学者たちは、調査対象の体の15以上の個所から回収した細菌の遺伝物質の塩基配列を解読し、500万以上もの遺伝子をリカバーした。


 このプロジェクトやそれに似た他の研究は、私たちの体内に住む目に見えない細菌が誕生から死にいたるまでの私たちの一生をいかに形成しているかを、ある程度明らかにしているのだ。


 最近の報告の多くは、母親がミクロビオームを形成することによって、子どもたちの健康をいかに促進しているかについて光を当てている。先週、専門誌『プロスワン(PLoS One)』に発表された研究で、ベイラー医科大学の産科医であるカースティ・オーゴール-ティレリ博士(Kjersti Aagaard-Tillery)とその共同研究者たちは、妊婦の膣のミクロビオームを記述した。研究を始める前は、オーゴール-ティレリ博士は、このミクロビオームが妊娠していない女性のそれと何ら変わりはないと思っていた。


 「実は、私たちが発見したのはそれとは正反対だったのです」と彼女は言った。


 妊娠初期三か月の早い時期に、膣の細菌の多様性は大幅に変わることを彼女は発見した。大量にいた種は稀になり、稀だった種が大量に住みつくようになった。


 妊婦の膣内で支配的になった種の一つはラクトバチルス・ジョンソニ(lactobacillus johnsonii)であることが判明した。通常この菌は腸に見出されるもので、腸で牛乳を消化する酵素を生み出しているのだ。控えめに言っても、それが膣内で増殖するのを目にするのは奇妙な発見だった。オーゴール-ティレリ博士は、膣内の状態の変化が、その細菌の成長を促したと推測している。分娩中に、赤ちゃんはラクトバチルス・ジョンソニにコーティングされ、その一部を摂取する。この事前の摂取は幼児が母乳を消化する準備となっているのだとオーゴール-ティレリ博士は考えている。


 赤ちゃんのミクロビオームは授乳期も成長し続けている。授乳する16人の女性を対象にした昨年公表された研究で、アイダホ大学のキャサリン・M.ハントとその共同研究者たちの報告によると、女性の母乳には600種の細菌と、赤ちゃんが消化できないオリゴ糖と呼ばれる糖が含まれている。科学者たちによれば、その糖はある種の有益な腸内細菌を乳児の中で育てるのに役立っているという。善玉菌が繁栄すればするほど、有害な種がつけ込むのは難しくなるのだ。



 子供が成長し、ミクロビオームが生態的に複雑になるにつれ、それは免疫システムにあれこれ情報を与えるようにもなる。生態系が混乱すると、この情報の提供が停止することもある。3月に、ハーバード大学のリチャード・S.ブルーメンバーグ博士(Richard S. Blumenberg)とその共同研究者たちは、この情報提供がいかに重要であるかを証明する実験を報告した。

 
 科学者たちは、あらゆるミクロビオームも欠いたマウスを育てた。無菌マウスは、その腸と肺の中に、異常なまでに高レベルのインバリアント・ナチュラル・キラーT細胞(Invariant Natural Killer T Cells)と呼ばれる免疫細胞を発達させた。通常、これらの細胞は、ウイルスや他の病原体に対して免疫システムが素早く反応するように引き金を引く。しかし、ブルーメンバーグ博士の無細菌マウスでは、キラー細胞は有害な炎症を引き起こした。それらのマウスが大人になると、喘息や炎症性腸疾患にかかりやすくなった。


 この実験は、近年子どもたちを対象にした研究に似ている。高レベルの抗生物質を摂取する子どもは、そうでない子供に比べて、後年アレルギーや喘息を発症するリスクが高まることは、多くの研究者によって提起された。


 ブルーメンバーグ博士とその共同研究者たちは、マウスがまだ若いときに細菌を投与することによって、マウスが病気になるのを防ぐことができることを発見した。大人になってからミクロビオームを獲得してもマウスの助けにはならなかったのである。



 悪玉にして善玉



 ミクロビオームを構成する種の多様性は、見きわめ難いほど膨大だ。しかし、それより一層困難なのは、免疫系がこの大量の細菌といかに上手くやっているかを理解することだ。たとえば、どんな人の口の中にも、75種類から100種類の細菌があることを、「ヒューマン・ミクロビオーム・プロジェクト」の科学者は発見した。ある人の口の中で優位を占める細菌の中には、他の人の口の中では稀であるものもあるだろう。それでも、そうした細菌が発見される割合から考えるならば、人間の口の中に住んでいる細菌は5000種に及ぶかもしれないのである。


 「詳しく見れば見るほど、発見がありますよ」。そう語るのは、マサチューセッツ州ウッズホールにある海洋生物学研究所に在籍し、ミクロビオーム・プロジェクトにも参加しているスーザン・M.ヒューズ(Susan M.Huse)。


 このプロジェクトは主に細菌に焦点を当てているが、ミクロビオームの多様性は細菌よりも幅広いのだ。たとえば、私たちの体にはウイルスも宿っているからである。



」(つづく)









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