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運動がより良い脳をもたらすのはどうしてか [海外メディア記事]

 運動がより良い知力(brainpower)をもたらす、という研究が相次いで発表されているという。そのことを伝えた『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事を紹介する。


 ここで言う「知力」とは海馬の大きさで計られ、認知テストの結果に反映する能力のこと。運動が、海馬の収縮を遅らせたり、場合によっては増大させることもあるという意味で、運動は知力を高めるのだという。そういう限定的な意味なので、こういう研究結果を直ちにIQの向上などに結びつけて考えてはいけない(が、こういうことを商売のネタにする人がきっと出てくるだろうと思うが)。

 こういう研究結果は、まあ、実感としても判る。運動によって脳の隅々にまで血流が行きわたるあの感覚からして、運動が脳の機能にとって悪いはずがないことは誰もが薄々知っていることだろう。もっとも、そうは承知していても、いざ体を動かそうとすると体が言うことを聞かなかったりする人が多いのだろうが・・・脳トレのゲームなどをするよりは、少し散歩をする方がずっと脳のためになることは肝に銘じておきたいものだ。

 
 



How Exercise Could Lead to a Better Brain


By GRETCHEN REYNOLDS
Published: April 18, 2012


http://www.nytimes.com/2012/04/22/magazine/how-exercise-could-lead-to-a-better-brain.html






 「  運動がより良い脳をもたらすのはどうしてか


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 頭をよくする探求についての記事(http://www.nytimes.com/2012/04/22/magazine/can-you-make-yourself-smarter.html)でダン・ハーリーが書いているように、メンタル・トレーニングのゲームにどれほどの価値があるかは、まだ憶測の域にとどまっているが、簡単に実行できて科学的に実証された頭をよくする方法が別にあるのだ。それは、散歩や水泳をしに出かけることだ。10年以上にわたり、神経科学者や生理学者は、運動と知力との有益な関係の証拠を収集してきた。しかし、最新の知見は、それが数多くある関係の内の一つにとどまらないことを明らかにした。知力に恩恵をもたらすものがあるとすれば、それは運動をおいて他にはない、というのである。最新のテクノロジーを使って個々のニューロンの働き――と脳の物質の構成――を調べたところ、科学者は、ここ数ヶ月の間だけでも、運動が、物理的な収縮に抵抗し認知的な柔軟性を高める脳を構築しているらしいことを発見した。最新の神経科学が示唆するところによると、運動は、思考すること以上に、思考能力を高める働きをするというのである。


 最も説得力のある証拠は、多忙で刺激的なケージの中で暮らす実験動物に関するいくつかの新しい研究に由来する。いわゆる「豊かな」環境――おもちゃや、面白くて新奇な作業がいっぱいある住み家――が実験動物の知力の向上につながることは以前から知られていた。マウスやラットは一般的に走ることを好むので、大抵の場合、環境を豊かにするものの中には回転かご(running wheel)が含まれる。新しいおもちゃで遊んだり、心拍数を増加させない他の方法でマウスやラットの関心をひくことに比べて、走ることがどれほどの効果をもつかを明らかにする研究は、最近までほとんど行われてこなかった。

 そこで、昨年、イリノイ大学の先端科学技術ベックマン研究所の心理学教授であるジャスティン・S.ローズ(Justin S. Rhodes)をリーダーとする研究者のチームが、4つのグループのマウスを集め、それらを別々の生活環境に分けた。あるグループは感覚を刺激するものや美味しい食べ物がたくさんある世界に暮らすようにした。ナッツやフルーツやチーズを餌として出し、食べ物は、時としてシナモンの風味をつけたり、さまざまな味のついた水で洗った上で提供した。彼らの「ベッド」は、ケージの一角を占めているカラフルなプラスチック製のイグルー(igloo:かまくらのような形の家)だった。蛍光色のボール、プラスチック製のトンネル、かじることのできるブロック、鏡、シーソーなどがケージの他のスペースに置かれた。第二グループは、これらの楽しいものに加えて、彼らのケージの中には、小さな円盤形の回転かごがあった。第三グループのケージには楽しいものは何もなく、ありきたりで冴えない食事が与えられた。第四グループの家には回転かごはあったが、他におもちゃや豪華な食事は与えられなかった。


 すべてのマウスには、研究の開始時に一連の認知テストを受けさせておき、科学者が脳の構造の変化を跡づけることができる物質を注射した。その後、マウスたちは、数ヶ月間、走ったり遊んだり、あるいは環境が豊かでない場合には、ケージの中でだらだらしたのだった。


 その後、ローズのチームは、マウスに同じ認知テストを受けさせ、その脳組織を調べた。その結果、おもちゃやおいしい食べ物は、それがいかに刺激的であっても、動物の脳を改善しないことが判明した。


 「重要だったのはたった一つのことでした」とローズは言った。「それは、回転かごがあったかどうかだったのです」。ケージの中を「豊かにするもの」があろうとなかろうと、運動したマウスの方が、運動しなかったマウスよりも健康な脳を持ち、認知テストでの成績も良かったのである。走り回らなかったマウスは、その世界がその他の点でどれほど豊かであっても、知力を向上させることはなかった。ローズが言うように「マウスはおもちゃが大好き」で、ケージの何もない静かな一角にはめったに近づこうとしなかった。しかし、おもちゃと遊んでも、運動をしなければ、マウスの頭は良くならなかったのだ。


 なぜ運動は、思考することには及びもつかないような仕方で、知力を向上させるのか? 脳は、すべての筋肉や臓器と同様の組織であり、その機能は、活用されなければ年とともに低下する。私たちのほとんどは、記憶やある種の学習に関連する脳のキーとなる部分である海馬の容量の約1%を毎年失っていくのだが、このプロセスは20代の終わりにもう始まっているのである。


 しかし、運動は、筋肉に関してとまったく同様に、脳の物理的な衰退を遅くしたり逆転したり出来るようなのだ。最近まで科学者は、人間の脳細胞は生まれつき一定数であって、それ以上に増えることはないと考えてきたのだが、今では違う考え方をするようになった。1990年代に、新生児に対する細胞マーカー技術を用いて、成人の脳にはかなりの数の新しいニューロンがあることを、研究者たちは解剖によって突き止めた。新鮮な細胞が特に支配的だったのは海馬だったが、このことは、ニューロン新生(neurongenesis)――つまり、新たな脳細胞の創造――が主に海馬で行われていることを示していた。それよりもずっと刺激的だったのは、運動がニューロン新生を活性化することを研究者が発見したことだった。数週間走り回ったマウスやラットは、じっとしていたマウスやラットに比べて、通常の約2倍も多くの新しいニューロンを海馬に持っていたのだった。その脳は、他の筋肉と同じく、増大していたのである。


 しかし、最も驚くべきことだったのは、運動が新たに形成されたニューロンの機能に対して及ぼすいわく言いがたい効果だった。脳細胞が知性を高めることができるのは、既存の脳神経のネットワークに加わるときだけで、多くの脳細胞はそれに加わることはなく、短期間に脳の中をあてどなくさ迷って死滅するのであった。

 だが、ネットワークにニューロンを引き入れる一つの方法は、学習することである。2007年のある研究で、マウスの新たな脳細胞がマウスの脳神経のネットワークに組み込まれるようになったのは、マウスが迷路のような水路を上手く進めるようになった時だったが、その課題は認知的に厄介ではあったが物理的には厄介ではなかった。しかしその脳細胞には、できることがわずかしかなかった。研究者が後で脳の活動を調べたところ、新たに脳神経の回路に組み込まれた細胞が活動電位に達したのは、マウスが再び水路の中を進んだときであって、別の認知的な課題に当たった時ではなかったことが判明した。これらの細胞の内にコード化された学習は、他の種類の思考活動に転化されることはなかったのだ。

 他方、運動はニューロンを活発にするらしい。別の研究で研究者たちがマウスを走らせたとき、マウスの脳はすぐに脳神経のネットワークに多くの新たなニューロンを組み込むようになった。しかし、これらのニューロンが後になって活動電位に達したのは、走っているときだけではなかった。それらのニューロンは、マウスが、なじみのない環境を探索するというような認知的な課題に当たっているときも、活動電位に達したのである。マウスにおいて、運動は、学習とは異なり、多様な課題に当たることのできる脳細胞を生み出したのであった。


 分子レベルで運動がいかにして精神を再創造しているかは、まだ十分には理解されていないが、研究が示唆するところによると、運動は脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotropic factor、BDNF)と呼ばれるものの増加を促すのだという。これは、細胞と軸索を強化し、ニューロン間の結合を強めニューロン新生を誘発する物質である。科学者は、人間の脳に似たような効果を及ぼすものを直接研究するには至ってないが、トレーニングの後、ほとんどの人の血流には、運動前よりもBDNFレベルが高くなっていることを発見した。

 BDNFが増えることが、運動に結びつく脳の変化のすべてを説明してくれると考える研究者はほとんどいない。完全なプロセスが複数の複雑な生化学的・遺伝的段階を伴うことはほとんど確かなことである。たとえば、年長のマウスの脳に関する最近の研究は、じっとしているマウスに比べて、走り回るプログラムを始めたマウスの脳では違った発現をする遺伝子が117もあることを発見したが、その発見は、運動によって脳内で違った発現をする多くの遺伝子のごくわずかな部分にすぎないかもしれないのである。


 
 どんなタイプの運動でもこうした望ましい効果を生み出すかどうかは、まだ解決されていない興味をそそる問題である。「活動が持久的な運動でなければならないかどうかは明らかではありません」。そう語るのは、イリノイ大学ベックマン研究所の所長であり運動と脳の卓越した専門家でもある、心理学者で神経科学者でもあるアーサー・F.クレイマー(Arthur F. Kramer)。過去数年間の限られた数の研究が発見したところによると、一年間ウエイト・トレーニングをしたがそれ以外の運動はしなかった高齢者の間に認知的な改善があったという。しかし、現在のところ、ほとんどの研究や、動物実験のすべては、走り回ることや他のエアロビクスの運動を対象にしているのである。


 しかし、どのような運動であっても、最新の科学からの新たなメッセージは、脳に効果的であるためには、へとへとになるまで運動をする必要はない、というものだ。2011年になされたある大きな研究のために、120人以上の高齢者からなるグループに散歩かストレッチのプログラムを割り当てたところ、一年後、散歩を割り当てられた高齢者の海馬が大きくなっていたことが判明した。それに対して、ストレッチを割り当てられた高齢者の海馬はボリュームを失い通常程度の萎縮を示した。散歩の高齢者は、ストレッチの高齢者よりも血流におけるBDNFのレベルがより高く、認知テストの成績も良かった。


 実は、散歩を割り当てられた高齢者の海馬は2歳以上若返った、と研究者は結論づけたのだ。65歳の高齢者が、ただ歩くだけで、63歳の脳を手に入れたことになるのだが、この知らせは、老年に向かうにつれて私たちが直面するものが、緩慢に(あるいは、それほど緩慢でもなく)精神が衰えていく人生なのではないかと心配するすべての人にとって、励みとなるものである。


」(おわり)








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