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『角萬』に江戸の面影を見る [雑感]

 依然として暑い7月某日の昼、自転車に乗って竜泉の『角萬』に行ってみた。

 前から一度は行ってみたいと思っていたのだが、竜泉は私の住んでいる東武線浅草駅近辺から近いようで遠く、中々その気になれないでいたのだ。

 行きたいと思ったのは、ラーメン二郎に比されるほどのボリュームのある肉そばが食べたいと思ったからではない。ボリュームが欲しければ二郎系のラーメン屋にでも行けばよいのだし、そもそもここの肉そばに入っているようなバラ肉は、私の大いに苦手とするものである。だから蕎麦が目当てである訳ではない。では、いったい何のために?

 蕎麦や蕎麦屋に対して私が興味を抱く理由の一半は、そこに歴史があるからだ。江戸の食文化は多彩を極めたが、その中でも人気度という点からすると蕎麦は別格ともいえる存在であったし、それゆえ、残された資料も格段に多く、したがって蕎麦の歴史について説く書物も数多い。そういう書物を時に読むのも楽しい経験だが、いや、そういう歴史的な知識とは無縁の、もっとちょっとしたことにも時間の奥行きとしか言えないものを感じ取ることができる。前回の『室町砂場』の時に記したような女性従業員の挨拶の涼やかなアンサンブルなどもその一例である。

 さて、『角萬』に興味をもったのは、いつか図書館から借りた植原路郎著『蕎麦辞典』で言及されていたことを確かめたかったからである。今回これを記するに当たり、また借りて確かめてみた。たとえば、同書145ページの「そば屋の店構え」にはこう書かれている。
 
 「江戸時代の面影を浅草竜泉寺町の「角万」にそれらしい例が見られる。店に入れば上り框があり、急ぎの客は畳に上がらず、上り框に腰かける(今は卓、椅子もおいてある)。・・・」
 
 私が借りた本は平成14年の改訂版だが、この記述は、昭和46年の初版そのままだろう。だいたい、いまは「竜泉寺町」などという言い方はしない。今日ある『角萬』(昔は「萬」ではなく、「万」だったのか?)の建物は、昭和40年代に植原氏が見た『角万』のそれとは違って、建て替えたものだろう。だが、確かに、一階の右側には上り框は現在も存在していた。きっとそのレイアウトは変わっていないのだろう。私が行ったときには、上り框で4人が蕎麦を食べていたが、それ以上は畳に上がれないほど窮屈だった。元来はテーブルなどを置く場所ではなかったのだ。胡坐をかいて食べるか、框に腰を掛けるだけだった。酒を飲みながらゆっくり食べたい人は二階に上がったらしい。上り框以外の平土間はそばを打つための場所で、一階で客がそばを食べる場所は、今からすると信じがたいほど狭かったことになる。蕎麦屋は手狭な場所に工夫をこらして、客の時間的余裕に応じた造りにしていたわけだ。
 
 そういえば、女将がこの『角萬』で修業した『浅草翁そば』にしても、今改築中の『並木藪』にしても、片側は畳の上り框になっていることを思い出した。『室町砂場』もそうだ。みんなテーブル席にしてもよさそうなのに、そうしないのは、何か伝統の形を残したいと店の人間が思っているからなのだろうか? たぶんそうなのだろう。『並木藪』が新たにオープンした暁に、一階のレイアウトがどうなっているか、注目したいところだ。

 さて、蕎麦はというと、大半の人が冷肉そばを食べている中、私はざるそばを注文した。たしかに太い。あまり歯応えが良いとも思えない。もっとも、歯応えなんぞというと、ダメダメ、蕎麦は噛むものじゃない。「蕎麦は手繰るもんだ」という人が出てくるかもしれない。「手繰る」という作法は、たぶん明治期の落語家が作り上げた神話にすぎないと思うのだが、あれは細切りの麺でしか可能ではないはずだ。蕎麦といえばあの紋切り型を持ちだしてくる人間に対しては、『角萬』に連れてきて、「さあ、手繰ってみてくれよ」と言いたくなる。そんなサディスティックな想像をかきたてる太さだ。

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 さて、蕎麦はというと・・・「これで850円はちょっと高いなあ」というのが正直な感想だった(たとえば『浅草翁そば』と比較すれば、だが)。しかし、植原氏によれば昭和40年代に江戸の風情を伝える店は『角万』くらいしかなかったらしいのだが、その言に基づくかぎり、改築されたとはいえ今の『角萬』には江戸の風情の名残りの名残りくらいは残っていることになるだろう。ちょっとだけ江戸の時代にタイムスリップしたような錯覚を味わえるのだとしたら、値段のことを言うのは野暮というものだと思わなければならないだろう。

 




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