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馬籠と妻籠――愛情をもって保存されている日本の二つの村 [海外メディア記事]

 

 海外の新聞・雑誌にのる観光ガイドみたいな記事は、ほとんど読むことはないのですが、それでもたまたま目について紹介することもあります。



 これまでも、記憶にある限りは、二編ありました。

 シュピーゲル誌に載った「恐山」の旅行記(http://shin-nikki.blog.so-net.ne.jp/2009-10-20。 ちなみにこれはとても良い文章ですよ)と、ニューヨーク・タイムズ紙に載った「東京ラーメン紀行」(http://shin-nikki.blog.so-net.ne.jp/2010-01-31http://shin-nikki.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03http://shin-nikki.blog.so-net.ne.jp/2010-02-05)。 



 今日紹介するのは、イギリス『ファイナンシャル・タイムズ』に載ったレスリー・ダウナーという女性が書いた中山道の「馬籠・妻籠」の旅行記。

 レスリー・ダウナーという女性は私は知りませんでしたが、大の日本通らしく、何と19世紀の日本を舞台にした小説( ‘The Courtesan and the Samurai’:『芸妓と侍』と訳すのかな?)を発表しているほど。記事の中にあるとおり、次回作は信州を舞台にした作品になるらしく、この旅は取材を兼ねていたものか? 彼女および彼女の小説について興味のある方は、彼女のHPを参照されたし(http://www.lesleydowner.com/)。


 ちなみに、文中に「飛脚」が、原文では、'flying feet’という言葉で紹介されているのですが、こんな訳語が定着しているとも思えないのですが、通じるんでしょうか?
 

 Two lovingly preserved Japanese villages By Lesley Downer



Published: August 14 2010 00:46 | Last updated: August 14 2010 00:46



http://www.ft.com/cms/s/2/69efc10e-a668-11df-8767-00144feabdc0.html



「 愛情をもって保存されている日本の二つの村




  馬籠でバスを降りた私たちは、正面の丘を曲がりくねって進む険しい石畳の坂道を、なにか信じられないものでも見るように眺めた。昔ならば、私たちのバッグを運ぼうとして、貧相な雲助たちが互いに小突き合いながら殺到してきたに違いない。もし私たちが大名であったなら、何千人もの家来や警護兵が土下座するように農民に怒鳴り散らす中、駕篭で運ばれただろう。しかし、21世紀の日本では、歩く以外にはないのだ。



 私たちはため息をつき、バッグをかかえて丘を登った。私たちの背後には、恵那山が壮麗な姿を見せている。大きな水車が、きしむ音をたて水を飛び散らせながら、ゆっくり回り、幅のせまい小川が道路脇で騒がしい音をたてて流れていく。頭上には電線が一本もないし、車は全く走っていない。そして、時おり鼻腔をくすぐるのは薪をくべる香りだ。



 私がここに来たのは、19世紀の日本に浸るためだ。私が取り組んでいる小説は、中山道で始まり、長野県・木曽谷の森林や村々を舞台にしている。徳川の将軍の支配はほんの140年前に終わったばかりなのに、日本の大部分では、徳川時代の風情はまったく失われてしまった。しかし、ここ、馬籠と隣接する宿場町の妻籠では、かつての風情が、二つの宿場町をつなぐ5マイルもの石畳の道とともに、愛情を込めて保存されてきた。



 ここは、日本を縦断する五街道の一つの中山道の一部だ。中山道は、300マイルもあり、天皇が住む京都と将軍の首都である江戸をつないでいた。1868年まで続いた徳川幕府の支配下では、商品の輸送以外荷車での輸送はまったく許可されていなかったのだが、それは、旅行者の動きを厳重に監視しようという考えからだった。それで、最も往来のある街道でさえ、将軍に敬意を表するために封建大名が江戸に参勤交代に出かける際の馬、駕篭、および一群の侍たちがやっと通れるほどの広さがあればいいと考えられていた。



 馬籠は「腰巻のような街」、つまり腰巻のように長細く、道路とそれを使用する旅行者にサービスを提供するためだけに存在するたった一つの街道からなる街である。瓦屋根(石が重しとして使われたところもあった)の魅力的な木造家屋は、ほとんどすべてが旅館か飲食店だ。今日、道路は観光客でにぎわっているが、そのほとんどが過去の風情を求める日本人だが、最近の日本でめっきり目立つようになったことだが、中国人も増加している。かつてこの通りは巡礼者や商人や信書の伝達人、ビクトリア朝イギリスの郵便業務より速く手紙を運んだかの有名な「飛脚(flying feet)」などでごった返していたのだろう。



 各宿場には本陣、封建大名が泊まるに相応しい豪勢な旅館があり、参勤交代の一行は、複数の大名がそこに泊まらないように、慎重に頃合いを見計らなければならなかった。



 馬籠の本陣はかなり特別だ。そこは有名な作家だった島崎藤村(1872-1943)の実家なのだ。1932年に出版された藤村の最も有名な小説『夜明け前』にインスピレーションを受けたのが、私がここに来た理由の一つだった。



 本陣の一部は藤村の記念館になっている。入り口の向こう側には、賓客が一般人に見られないようにするための高い石垣がある。中には広々とした庭と大きな田舎風の邸宅がある。編んだわらがクッションの重い木製の鞍(くら)、大きな漆塗りの鐙(あぶみ)、糸車、機織り機、精米用の石などとともに、滑車に釣瓶がついている井戸、厩舎、および駕篭の小屋などすべてがそこに揃っている。



 豪勢な本陣は、普通の旅行者用のこじんまりとした旅館や食堂とは別の世界である。暗くなるころには、ほとんどの旅行客はいなくなった。私たちは、野外のベンチに座りながら太陽が山の彼方に沈むのを見ていた。家々の軒先の提灯に灯がともり、街道沿いの旅館から喧騒が聞こえてきた。私たちは、但馬屋という宿で、居間の畳敷きの床に座りながら夕食をとり、とても急な階段をのぼって居心地のよい角部屋に泊まった。



 翌日、私たちはバッグを観光案内所に持っていった。そこでバッグは次の目的地まで送り届けられることになっていた――雲助を雇う現代版だ。荷物から解放されて嬉しくなり、私たちは長い村の通りを終わりまで歩いた。曲がりくねった道の両側にはまだ数軒家が並んでいて、道は森の中に続いていた。



 私たちは、竹藪のすき間やスギ林を通って、流れの急な川の脇を歩いた。 木の幹は空に向かってどこまでも伸び、頭上はるか高いところで鬱蒼とした葉の天蓋となるまで続いていた。その天蓋を通って光が差し込むことはほとんどないので、下の枝で成長する葉はまったくない。それは自然界の大聖堂である。



 歩きづらいほど道が急勾配になる所もあった。小さな村にやって来た。 私たちの前方には、巨大なかごを腰をかがめて背負った老女が重い足どりで歩いていた。庭で作業をしている帽子をかぶった女性のもとを通り過ぎたが、それ以外に誰も周囲にはいなかった。



 その頃になると、私たちは休息をとりたくなっていた。19世紀には、まさにこの目的で一定の間隔を置いたところに茶店があったのだ。それらしきものが目についた。シャッターのような板戸がある絵のように美しい薄暗い建物だった。中を覗いてみた。その場所は長年使用されていなかった。



 ついに、馬籠峠の頂上にある茶店のところまでやって来た。ここに至る道は山の縁に沿って曲がりくねる急勾配の小道だったが、それはまるで浮世絵師広重による19世紀の版画にある通りの景色だった。茶店はあるにはあったが、そこも閉まっていた。コカコーラの販売機さえも作動しない。木曽の谷をじっと見つめながら、私たちはしばらくの間ベンチに座っていた。この道を歩いている人がいたとしても、きっと人目につくことはないだろう。私たちは、思いのままに想像力を働かせてどんな過去にでも戻れるような気がした。


(19世紀風の制服を着ている郵便局員)

 馬籠を出発してから気楽な3時間をすごした後、私たちは次の宿場町の妻籠に到着した。馬籠は絵本のように完璧だったが、妻籠は働く村のように感じられた。郵便局の人でさえ19世紀風の制服を着ていた。ここの本陣は馬込の本陣よりもさらに壮大だった。私たちは、明治天皇がこの一帯を巡幸した際に休息をとった巨大な畳張りの部屋を爪先立って歩き、襖の上部にある美しい雷文飾りや庭園に見入った。一方の庭には鯉がいっぱい泳ぐ池があり、もう一方の苔むす庭には慎重に配置された一対の石燈篭があった。またここには博物館があった。古い火縄銃や、自分自身が使うためにあえて木を切り倒した農民がどうなるかを描いた絵があった。「ひのき一本首一つ」が掟だったのだ。



 晩になって散歩に行こうと思ったが、月が出ていなかったし街路灯もまったくなかった。漆黒の闇だった。その代わりに、私たちは外に出て腰をおろし、川の音や茂みから聞こえる奇妙で何の生き物とも判然としない生き物の鳴き声に耳を傾け、田舎の新鮮な香りを吸い込んだ。これが、この現代にあって古い日本にたどり着く最短の道のりなのである。









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