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感情のない顔(1) [海外メディア記事]

この記事は、特殊には「メビウス症候群」を扱ったものだが、より広く取れば、何が感情の交流や人と人とのむすびつきを可能にするのかということをテーマにしているのだろう。『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたBenedict Carey氏の記事より。

http://www.nytimes.com/2010/04/06/health/06mind.html

ボガートさんのスライドショー形式の写真と話が聞けます。もちろん英語ですが。

http://www.nytimes.com/interactive/2010/04/05/health/20100406_facialparalysis/index.html?ref=health

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マサチューセッツ州 メッドフォード――その女性はおびえて一人ぼっちだった。避難する前にわずかな持ち物をプラスチックのごみ袋になんとか詰め込んできてはいたものの、車椅子の中で沈み込んでいた。

2005年の夏、ルイジアナ州バトンルージュに逃げ込んだハリケーン・カトリーナの多くの被災者と同様に、その女性には食料や避難所以上のものが必要だった。自分と一緒にいてくれて自分に同情してくれる人――会いに来てくれて自分の喪失感を感じてくれる誰か、そういう人なら誰であれ――が必要だった。そして彼女に割り当てられたソーシャル・ワーカーの顔を見つめたが、無駄だった。

 
そのソーシャル・ワーカーは、大学を出たばかりだったが、感情的に疎遠なように見えた。何かが欠けていたのだ。

 
「私は、自分たちの間の感情的なつながりが上手くいかないことが分かりました。上手くいってないなと分かったのですが、私にできることは何もありませんでした」。そう語るのは、現在タフツ大学で心理学の研究員をしているソーシャル・ワーカーのキャスリーン・ボガート(28)。ボガートさんはメビウス症候群(Moebius syndrome)にかかっている。それは顔面麻痺を引き起こす稀な先天的病気で、19世紀の神経学者にちなんでそう命名された。

 
彼女が手助けする人々が悲しげな表情をするとき、「私はそのお返しをすることができませんでした。私は言葉や声の調子でそうしようとしたのですが、無駄でしたね。顔の表情がないので、そこで感情が消え去って、共有されないのです。ただ消えてしまうのです」。

  
研究者たちは以前から、顔の表情が社会的交流にとって決定的に重要であることは知っていたし、顔の表情を詳細にカテゴライズしてきた。彼らは、どんな表現が普遍的なのかを知っている。彼らは、表情のわずかな違いを区別することができる、たとえば儀礼的な笑顔と真心からの笑顔を区別することができるのである。

  
しかし、肝心な問いが残っている。いかにして脳はあれほど迅速でかつ正確に他人の表情を解釈することができるのか、という問いである。専門家によれば、それに対する答えは、どうすれば社会的交流がスムーズに行くのか、そしてどうすればまずくなるのかを理解するために非常に重要なのだそうだ。

 
これまでの研究は、心理学者が表情の模倣(facial mimicry)と呼ぶものに焦点を当ててきた。社会的交流において、人々は無意識のうちにお互いの驚きや不快感や喜びを反映しているのであり、実際には、自分の顔に現われ出るものを感じることによって感情を読み取っているのだという。これらの研究が示唆するところによると、模倣する能力が妨げられると、他人の表情を読みとることが下手になるらしいのである。

 
しかし、どのような表情であれ、まったく模倣することができない人がいるならば、どうすればいいのか?

メビウス症候群に関しては現在のところ最大である新たな研究において、ボガートさんとサンフランシスコ州立大学の心理学者デイビッド・マツモトは、その障害をもつ人々が、(その人々の社会的な苦労がいかなるものであれ)、他人の表情を認識するのにまったく困難がないことを見いだした。彼らは、模倣することがまったく出来ないにもかかわらず、写真に写った顔の内に感情を識別することにかけては、ほかのどんな人にも劣ることはないのである。

 
この発見が強く示唆しているのは、脳が表情を認識する別のシステムをもっていて、顔面麻痺の人々はそうしたシステムを利用するようになるのだ、ということである。「そういう人々は、長期にわたる障害に応える形で、代償的な戦略を身につけるようになるのかもしれません」。デューク大学の心理学者で、メビウス症候群の今回の研究に関与していないターニャ・チャートランドは、電子メールメッセージでそう述べた。「その戦略は、模倣のプロセスに依存せず、しかもメビウス症候群をもつ人々が別のルートをとおって感情を理解することを可能にさせているのです」。

 
専門家によると、もしこのような戦略が教えられるものならば、社会的な適応が困難な人々にも(その原因が不安や、自閉症のような発達上の問題であれ、ベル麻痺のような部分的麻痺をもたらす一般的なものであれ)、それは有益となるかもしれないのである。

「私は、顔面麻痺症候群の持ち主だったけれど、それを研究することに特別興味があったわけではありませんでした。私には他の多くのこともできたでしょう」とボガートさんはタフツ大学のオフィスで語った。「でも、大学に入ったら、顔面麻痺についての心理学者の見解を見たいと思っていたのですが、何もなかったんです。顔面麻痺についてはほとんど何もなかったですね。そして私はただただ ――そう、腹が立ったのです」。

  怒りの感情が走り、彼女は握りこぶしをつくり背筋をぴんと伸ばした。その感情は、彼女の顔をバイパスして、目にみなぎる力となって現われた。「腹が立ったのです。きっと私以外にはいないのだから、自分がやったほうがいいわと思ったのです」。

メビウス症候群の原因は知られていない。それが全面的、あるいはほぼ全面的顔面麻痺という結果を伴って発症する確率は、出生児10万人の内の1人にもみたない。たいていの場合、目がまばたきすることはなく、虹彩は上下にしか動かないため、目を横に動かすことはできないし、凝視する・横目で見る・目をぎょろっとさせるといった言葉は使えなかった。幼い子供時分から周囲のからかいが始まり、時とともに増すばかりだった。からかわれる人がどれほど困っているかとか苦痛を感じているかを判ってくれる者は一人もいなかった。 「普通じゃない顔をしていて、しかも意思を誰にも伝えられないようなもので、悪い条件がすべて揃ってましたね」とボガートさんは言った。

この病気を抱えるほとんどの人はりっぱに日常生活を送っている。「ちょうど視覚障害者と同じですよ、彼らも触覚や嗅覚や聴覚がその分鋭くなるでしょう」とマツモト博士は言う。「同じことがメビウス症候群の人にも起こっているのだと思います。ただ、非言語的コミュニケーション内部でのことですが」。

 
二人で著わした最初の研究の中で、ボガートさんとマツモト博士は、メビウス症候群を抱える36人に、怒り、幸福、悲しみといった典型的な表情の写真をオンラインで見てもらった。実験参加者は、ほぼ4回に3回は、写真に写った感情が何であるかを正しく言い当てたが、その比率はこの病気を持っていない人と同じだった。スコアをつけるうえで障害の程度は考慮されなかった。

この結果は、こうした麻痺をもつ人々にとって人との付き合いが簡単であるとか自然であるということを意味しているわけではない。ほとんどの人が本当に苦労していることを、ボガートさんとマツモト博士はフォローアップの研究で明らかにした。(表情に変化がないために相手が戸惑うという理由以外に)彼らが苦労している主な理由は、他人の感情を認識できないという欠陥とはほとんど何の関係もないことが、諸研究によって示唆されたのである」。 (つづく)











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