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ウツの利点 [海外メディア記事]

  『ニューズウィーク』誌のSharon Begley女史の記事を紹介します。
 進化論の観点から言えば、今ある人間の特徴やら形質はすべて、進化の過程でわれわれが生き延び、環境に適応するのに役立ってきたものであるはず(これを指して「適応的」と言うわけですが)。だから、一見存在理由がないように見えるものでも、理由がある。したがって、ウツにも効用があり、投薬で抹殺すればいいというものではない、となります。ただし、ウツの積極的効用は何処にあるのかという点になると、いまひとつ歯切れがよくないように見える。まだまだ仮設の段階を当分抜けられそうもないように見えます。

  ただしこれは昔からある古典的主張で、それが今日、進化心理学という新しい意匠のもとで新たにクローズ・アップされつつある、ということでしょう。 ウツを引き起こした原因をよく考えてみなさい、そうすればその解決が見つかるかもしれませんという(下で示される)方針は、フロイトに逆戻りしたかのように見えて面白いですね。一歩進んだようにみえて、二歩さがっているだけではないか? と私は勘ぐっています。


The Upside of Feeling Down
Depression might be evolution's way of fixing what ails us
Sharon Begley Nov 2, 2009
http://www.newsweek.com/id/220858

 
「  落ち込むことの利点 

 ウツ(depression)になることは、われわれを悩ますものを解決するための進化の産物かもしれない


  近頃、幸福は旗色が悪い。幸福を扱った書物は一見すると途切れることなく出版されているように見えるが(幸福を「人生の最も重要なスキル」と呼ぶ本も含め、私が幸福という語で検索したところ、アマゾンでは426,789冊ヒットした)、昨年あたりからすでに逆風が吹き始めた。昨年、私は次のような指摘をした。「人生晩期の病気にかかった人の間では、幸福感が非常に高い人は、ほどほどに満足している人よりも、どの時間帯をとっても死ぬ確率が高い。いつも幸せでいると、現実にせまっている脅威を過少評価してしまう」と書き、悲しみという普通の人間が抱く感情を投薬によって処理しようとする最近の傾向を嘆く学者の声を紹介した。

 
 幸福や幸福産業に対するこうした批判のほとんどは、ほどほどの幸福では充分でなく、われわれには皆、本当に幸福になる義務がある――しかも、かつては普通の悲しみと見なされていたものは、隠したり回避されるべきものだと述べるメッセージの効果に懸念を抱いた心理学者、哲学者、社会学者から発せられたものであった。そこで私は、もっと脳に定位した観点を取っている科学的論文を見てみたいと思った。


 『サイコロジカル・レヴュー(Psychological Review)』に寄稿した論文で、ヴァージニア・コモンウェルス大学の博士研究員のポール・アドリューズとヴァージニア大学の精神科のJ・アンダーソン・トムソン・ジュニアは、ウツは種においても、個体においても、目的をもって存在しているのであって、もしウツをなくそうと試みるならば、それは危険な火遊びになるだろうという趣旨の研究を提示している。進化論の用語で言えば、ウツとは一つの適応なのだ、と彼らは主張する。つまり、進化の結果としてウツが今に残ったのは、ウツが、それを経験しない個体に比べて、それを経験した個体を、自然選択のもとで、環境により適合する存在としたからである。アンドリューズとトムソン――二人は宗教的信念の心理学でもっともよく知られているが、抗ウツ剤が愛や誠実さを脅かしているかどうかの研究もしている――は、証拠として、5-HT1A受容体と呼ばれる脳内の分子の存在を挙げている。これは、脳内化学物質セロトニンにとっての停泊地の役割をはたすものだが、これをプロザック/ゾロフト/パキシルといった抗ウツ剤は標的とするのである。人間の脳が5-HT1A受容体をもつ唯一の脳というわけではない。ラットも5-HT1A受容体をもっている。


 本当に面白い部分は次の点にある。ラットのもつ5-HT1A受容体は、人間のそれと99%同一である。このことが示唆しているのは、ラットと人間の共通の祖先から進化していく上で、自然選択は受容体にあまり関わらなかったということである。こうした「構わないでおきましょう」という歴史が生ずるのは、ある形質の機能がとても重要で、それをいじくることは利益よりも害をもたらしてしまう場合である。しかし、一体どんな害が出てくるのか?  この受容体を失くしてしまうようにする突然変異を蒙ったネズミは、ストレスに見舞われてもウツの徴候を示すことが少なくなった、と1998年のある論文は報告している。言い換えると、ストレスに反応してウツの状態を高める受容体を失うことは、進化がとてもまずいやり方と考えるものなのである。ゆえに、ウツは、安易に投げ捨てられるべきものではない、ということになる。


 しかし、どうしてそうなのか? ウツは思考と行動を有益な方向に変えるからだ、とアンドリューズとトムソンは主張する。たとえば:


 * ウツ状態に陥った人々は、熟考し、ある問題を心の中で何度も考える傾向がある。どうしてデートの相手が見つけられないのかを熟考するならば、それは良くないことだろう――そんなことをただ考えていてもずっとウツ状態が続くだけだからである。しかし、そのように考えることは「しばしば高度に分析的」になる。それは、火事を発見したときのような「見つけた!(Eureka!)」という瞬間はいうまでもなく、そもそも最初にウツ状態に至らしめた問題に対する解決を生み出すかもしれず、有益になるかもしれない。骨の折れる問題に取り組む前にウツを感じる人は、陽気な受験者よりも高い点をとる傾向があると、アンドリューズとトムソンは2007年の論文で報告している。

 
 * ウツは思考を一点に集中させる傾向がある。5-HT1A受容体はニューロンに燃料を供給し、ニューロンがだれることなく働くことを可能にするものであることが判明している。それには前頭前野両側面のニューロンも含まれているのだが、それは精神が活動し続けるために絶えず働かなければならない箇所である(注意力を司る神経回路である)。一点に集中した思考は、分析的思考と同様、人がウツ状態を克服する一助となるかもしれない。


 * ウツに陥った人は、孤立を求める傾向が強く、セックスや食事や生きていることそのものから喜びを引き出すことができなくなる。これは明らかに当人にとっては壊滅的なことであるかもしれない(致命的になることすらありうる)。しかし、それは適応的であるかもしれない。こうした行動によって、最初にウツ状態のきっかけとなった問題を解決するかもしれない集中した熟考が育まれるからである。2006年のある研究の発見によると、ウツ状態に陥っている人が表現力の要る文章に専念し、そのために嫌でも自分の悩みに直面せざるをえない場合、その人のウツは、そうでない場合に比べて早く解消する傾向にあるのだという。2008年のある研究も同じ結論に達した。


 * トムソンは、ヴァージニア州のシャーロットヴィルで精神科のクリニックを開いているのだが、精神についての見解がいかに進化心理学(いろいろな面があるが中でも、病気の進化上の起源についての仮説を提起する学問)によって形成されてきたかを次のように語った。進化心理学は、生命を見る見方や精神科のクリニックを運営する仕方を変えてしまった、と彼は言う。彼は理論を実践の中にもち込み、ウツで苦しむ人々はそれまで以上に熟考するならばそこから利益が得られる(熟考することが少なくなれば利益は得られない)とすら言う。「セラピーは、ウツ状態での熟考をストップさせるのではなく促してやるべきで、ウツ状態の引き金となった問題を当人が解決する手助けをすることに焦点を合わせるべきである」と、一般向けに書かれた文章で彼とアンドリューズは書いている。




 ウツが適応価値をもっているかどうかという問題が解決からは程遠いということは明らかである。次のような批判があるからである。ウツが熟考や分析的思考をはぐくむという主張は疑わしい、なぜなら、ウツで苦しんでいる多くの人々の報告によると、自分が抱える問題を熟考しても、それは明瞭でも、一点に集中して分析的でもまったくなく、自分の病気に対する洞察を――ましてや、その解決法を――ほとんど与えてくれないから、という批判である。しかしながら、哲学者や社会学者が幸福や幸福産業の有害な影響について述べている中で、脳科学の知見をその対立に投げ込んでみるのは有益なことである。











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編集部.K

はじめまして。
編集部.Kです。
「うつ」の家族がいるのですが、右を見ても左を見ても「うつ」の人が少しずつ増えているのかなっという気になります。
上記の文章を読んで、そういえば、こんな状態なのは日本だけなのかな…と視点が狭くなっていることに気付かされました。(いけませんね)そう考えると、進化論やらヒト、もっと幅広く考えられるものですね。社会の枠組み自体が窮屈になっているのか、もっともっと色々なヒトを人を社会が受容するときにきているのかなとも思ってしまいました。
それこそ、マイナスではなく、今の状況をプラスに持っていくことはできはしないかと…。可能性を見つけてみたいものです。
by 編集部.K (2009-11-05 08:45) 

MikS

 お読みいただいてありがとうございました。そうですね、なるべく広い視野をもちつつ、さりとて身近にいるウツの人にはそれほど長い目で接するわけにもいかず、難しいところですね。
by MikS (2009-11-05 12:54) 

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