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遺伝子を変えるもの [海外メディア記事]

  久しぶりに、Sharon Begleyの明快な記事を。明快なといっても、もとになっているテーマが簡単ではないので、とっつきにくいと思う人がほとんどでしょうが、最低限のことを要約すると、「遺伝子」と聞いて私たちが脳裏に思い浮かべがちな機械的で、変更不可能なイメージは捨てて、遺伝子はもっと柔軟であり、環境の影響を受けてそのスイッチを入れたり切ったりするものだ、という考え方が述べられています。これはBegleyの著作「可塑的な心(The Plastic Mind)」とも密接に関連するものです。

  パウル・カメラーのエピソードも印象深い。時代の先を行く人には悲劇的な最後が待っているという典型例ですね。科学には、原理的なレベルでの名誉回復がありうるだけ、まだ救いがありますが・・・

 

By Sharon Begley | NEWSWEEK Published Sep 18, 2009
http://www.newsweek.com/id/215563?from=rss


「  遺伝子を変えるもの ―― ペテンは、実は発見だったのか?

 それは、しばらくの間、生物学におけるもっとも有名なペテン行為であった。1906年から1923年にかけて、オーストリアの生物学者パウル・カメラー(Paul Kammerer)は、サンバガエルをつかった実験で目覚しい結果を報告していた。両生類にしては極めて珍しいことに、マリョルカサンバガエル(Alytes muletensis)は水上ではなく、陸上で交尾をし、オスが、やはり陸上で、卵を脚部に抱えて孵化させた。しかしカメラーがマリョルカサンバガエルを高温で乾燥したテラリウムで飼育すると、カエルたちは、近くにおいてあった冷たい水の入ったボウルでほとんどの時間をすごした。彼らはそこで交尾をし、母親は卵を父親に持たせる代わりに、そのボウルに産卵した。これほど種固有の(そして「サンバ」という名前がそこに由来している)行動がこれほど周囲の状況次第で変わってしまうことはまったく奇妙なことであった。しかし、カメラーが発見したのはそれだけではなかった。


 オタマジャクシが成長すると――ヨーロッパ中の科学者が眉をひそめたのはこの点なのだが――彼らは水上で交尾し水中に産卵したのだった。父親は、砂漠のような条件で生きているわけではないのに、もう孵化の手伝いをすることはなかった。第4世代までには、オスのカエルには拇指隆起(nuptial pads)が出来ていたとカメラーは報告したが、これは(メスをつかまえるために)水中で交尾するカエルがもつ特徴であるのだが、サンバガエルはその特徴をもっていないはずである。かくしてカメラーは獲得形質の遺伝(inheritance of acquired characteristics)がありうることを証明したことになった。「獲得形質の遺伝」とは、新しい行動上の特質(水中での交尾)や解剖学的な特質(拇指隆起)が環境によって生み出され、子孫に受け継がれる(子孫がその環境にさらされることが一度もなくても)ことがありうるという考え方であるが、それは当時も今も信用されていない考え方であった。


 他の科学者は疑いの目を向けた。当時、DNAが遺伝をつかさどる分子であるという発見はまだなされていなかったが、ダーウィンとメンデルを統合した基礎的理論によれば、形質は両親からそのままの形で受け継がれ、親の経験が卵子や精子にある遺伝の素材を変えることはありえないとされていたからだ。実際、カメラーの批判者の一人は、墨汁をカエルに注入したら、拇指隆起のようなものが生えてきたことを発見した。1926年8月7日『ネイチャー』に掲載されたある論文は、カメラーがペテンを働いたことを示唆した。6週間後、カメラーは自殺した。アーサー・ケストラーはこの事件をテーマにして、1971年に『サンバガエルの謎(The Case of the Midwife Toad)』を書き上げた。


 カメラーの名誉を回復しようとする試みがあちこちでなされてきたにもかかわらず、カメラーの名前は科学におけるペテン行為の同義語となってしまった。しかし、魅力的な新しい分析で、チリ大学の生物学者のアレクサンダー・ヴァルガスはまったく違う結論に到達した。カメラーは、実は、エピジェネティクス(epigenetics)――そこでは、遺伝子が経験によって――ここで私は単純化して書いているが、単純化はほんの少しだけである――黙らさられるのである――と呼ばれる現象を発見したのだった、という結論である。「ペテン師というよりも、カメラーは、非メンデル的で、エピジェネティックな遺伝の真の発見者だったのです」とヴァルガスは言う。


 エピジェネティクスは、いかにして遺伝子のスイッチが入ったり切れたりするのかを研究する、いま人気化している新たな分野である。それが生じうるのは、分子レベルでは、メチル基と呼ばれる4つの原子からなる結合体が遺伝子に付着しそれを黙らせるときである。エピジェネティクスが非常に魅力的なのは、それが、私たちが日々送っている生活が私たちの二重ラセンにまで達し私たちの形質を変えてしまうことがどうしてありうるのかを説明してくれるかも知れないからである。たとえば、母親のラットが子供のラットの体をなめてきれいにするとき、その行為は、子供のラットが好奇心をもち社交的になるようにする遺伝子から、DNAを黙らせる要素を取り除いている、ということが判明した。エピジェネティクスのメカニズムは、また、同一の遺伝子を受け継ぐ瓜二つの双子が、遺伝的な病気を含む違った形質をもつのは何故かを説明してくれるかもしれない。双子がそれぞれ送っている違う生活のせいで、ガンや統合失調症に関係する病気を含むある種の疾病遺伝子のスイッチが入ったり切れたりする、ということが判明するかもしれない。


  卵(両生類の卵も含む)が――カメラーのサンバガエルの卵がそうであったように――水中で時間をすごすと、その中にあるDNAは相次ぐメチル化の影響をこうむることになり、ある遺伝子はオンに、別の遺伝子はオフになる。そうした遺伝子の一つの集合が陸上で生活し卵を孵化するための指令を携えているならば、その遺伝子のスイッチをオフにするとカエルは元の両生類的な生活に戻り、水中で交尾することになるだろうが、これこそカメラーが発見したことだった。陸上で暮らすための遺伝子は、「水にさらされた初期の胚の時期に環境によって黙らされた(environmentally silenced)」ようだ、とヴァルガスは言う。彼はカメラーの実験ノートを詳しく調べ上げ、その分析は『実験動物学ジャーナル(Journal of Experimental Zoology)』に掲載された。「環境が遺伝に影響を及ぼしうることを厳密な仕方で認めるには苦しいほど長い時間がかかりました」と彼は私に語った。「学会は、環境が遺伝に変更を加えるかどうかを検証する実験を阻止してきたと思います」。それは、獲得形質の遺伝――ラマルク主義――と聞くだけで、進化論の保安部を自認してきた人々はムカッとくるからなのだ。

 そういう人々は、もっと研究論文を読む時間を増やし、政治的な陣営強化のためのエネルギーをもっと控えてもいいのではないだろうか」。 


















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