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脳とアイデンティティー(3) [海外メディア記事]

 連続記事の三回目。回復過程にあるアダム・リパックとその周辺のことが簡潔に語られています。脳科学に焦点を当てたケイリー記者のこのシリーズはこれからも注目していきたいと思っています。 



By BENEDICT CAREY Published: August 8, 2009

http://www.nytimes.com/2009/08/09/health/research/09brain.html?pagewanted=3&_r=1&hpw
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「  負傷した後、自己の感覚を取り戻そうと奮闘する 
 

 アダムは、家では家の親密さを経験し、ヨロヨロとではあったが歩き始め、短いセンテンスではあるが、しゃべり始めた。母は、記憶訓練をさせたり、たえず問いかけてみてたり、昼の介護者を手配したり、保険業者と言い争ったり、家で彼の面倒を見るという困難な仕事の多くに当たった。リパック家は民間の保険と州および国の補助金の組み合わせでやりくりして来た。父は家をわずかに増築して、アダムが動き回りやすいようにした。彼はまだ大半の時間を車椅子ですごしているのだ。

 しかし、彼の人生にかかわりのある人々は、できる限り、彼をアダムとして扱い始めた。「いろんなことがあったけど、もう元の関係に戻る時期だと思う」とニックは言った。「結局、彼は僕の兄さんなんだし」。

 彼の友人たちはしばしば家に立ち寄って、愉快な時間をすごそうと、彼をランチに誘う。

 最近のとある午後、食堂のテーブルに腰掛けて、8人の友人が事故前の数年の話を聞かせてくれた。話題の中心のアダムは最初むっつりしていたが、おなじみの話をいくつか聞くうちに彼は身をのりだした。その土地のコーヒー・ショップから古くなったドーナッツの入った袋をいくつも盗んでそれをタクシーめがけて投げつけた話が出たとき、アダムがタイミングよくクラッカーを鳴らすと、友人の一人がイスからころげ落ちてしまった。別の話題になるたびに笑い声が大きくなり、アダムも微笑んだ。しばらくすると、グループは静かになった。


 「アダム、君には話題はないの?」と友人の一人ショーン・スタインベイカーが言った。

 「そう、言ってみてよ」と、もう一人の友人シェーン・ディリジオも言った。彼はふざけているわけではなかった。「どうかしたの、アダム? 話題はないの? 」。

 彼は話題はもっていなかったが、コメントはもっていた。彼は親しみをこめてみんなのことを見わたし、微笑みながらこう言った。「お前ら、みんな最低だよ」。



 再出発


 アルバート・アインシュタイン大学のファインバーク博士は誤認妄想を、その妄想を見るほとんどの患者が苦しんでいる右脳の前頭葉の損傷の結果として生じる、単純な心理的防衛と見なしている。その防衛には、自分が無力であることを否認したり、問題を他者の方に投影したり、日常生活が何となく現実的でないという幻想などが含まれる。


 「これらは3才から8才までの子供に見られる防衛的態度です。しかし大事なのは、こうした防衛的な態度が積極的な順応であることを理解することです。脳が生き延びるために奮闘しているわけですから」。

 
 このような防衛的態度を抑止して、みんながこれらの態度を共有しているわけではないことを理解できるようになると、それは脳の前頭部のもろもろのエリアが復活しつつある証拠なのです、と彼は言う。


 最近の数週間、アダムは妄想を見る回数が減りつつある。ニューヨーク州ゴードンで、障害をもつ人々に乗馬の機会を提供している牧場に、7月、1時間かけてドライブしたとき、アダムの心は大きく動いた。「ママ、僕に何が起こったんだっけ? 」と、彼は何度も尋ねた。

 「話してごらんなさいよ、アダム」。母は、機を見てそう言った。「一分前にも同じことを言ったばかりなんだから。何が起こったか判っているんでしょう。判っているのよね」。

 「言いたくないんだ」と彼は言った。

 「どうして? 」。
 
 「きっとママは、僕がおかしいんじゃないかと思うだろうから」。

 「そんなこと思わないから。話してみて」。

 「いやだ」とアダム・リパックは言い、しばらく窓の外を眺めていた。物思いにふけっているようだった。

 「ママ? 」と彼はまだ窓の外を眺めながら言った。

 「なに、アダム」。

 「僕、バイクの事故にあったんだよね」

」(おわり)。








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