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脳とアイデンティティー(2) [海外メディア記事]

 前回の続きで、脳の回復にも、人々との接触、社会性あるいは社交性が必要だということが述べられています。

 ちなみに、途中で出てくる「中国の水責めの拷問(Chinese Water Torture)」とは、この文脈のまま、中国で被疑者に対して行う、額に水滴を一滴ずつゆっくり垂らす拷問なのだとか。私は初耳でしたが、アメリカでは結構ポピュラーなよう。テレビ映画で使われたのでしょうか?



By BENEDICT CAREY Published: August 8, 2009

http://www.nytimes.com/2009/08/09/health/research/09brain.html?pagewanted=2&hpw

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 負傷した後、自己の感覚を取り戻そうと奮闘する 
 

 人格の同一性に関わる情報を処理するときの脳をスキャンしてきた研究者たちは、いくつかのエリアが特に活発であることに気づいた。それらのエリアは、大脳皮質正中内側部構造(Cortical Midline Structures)と呼ばれ、額近くの前頭葉から脳の中心へとリンゴの芯のような形で横たわっている。


 これらの前頭部や正中内側部のエリアは、両耳の下部深いところにある側頭葉内側部にあって、記憶や情動を処理する脳の領域と連絡している。もろもろの研究が強く示唆しているのは、アイデンティティーに関わる妄想では、こうした情動の中枢が前頭部正中内側部のエリアと上手くつながっていないか、充分な情報を提供していないかのいずれかである、ということである。ママはママにそっくり見えるし声もママの声に聞こえるけれど、ママがいるという感覚が欠落しているのである。ママはどこかしら非現実的に見える。

 古典的な誤認妄想は、フランスの精神科医マリー・ジョセフ・カプグラ博士にちなんで、カプグラ症候群(Capgras syndrome)と呼ばれる。カプグラ博士は、ジャン・ルブール・ラショー博士とともに、1923年、53歳の患者の症例を書き記したが、「その患者は、自分の周囲にいるものは誰であっても、たとえそれが夫や娘のような一番身近な人であっても、多種多様な替え玉に変えてしまった」。


 専門誌『神経学(Neurology)』一月号に発表した症例の分析で、ニューヨーク大学の神経学者オーリン・デビンスキー博士は、そうした妄想をもつ人は左脳よりも右脳によりいっそう多くのダメージを負っていると記した。直線的な推論や言語は、主として左脳の働きによる傾向があり、全体的な判断――抑揚や、強勢が何を意味するかについての判断――は、右脳のほうでより多く処理されがちである。デビンスキー博士によれば、親や愛する人と一緒にいてもおなじみの情動の動きが欠けている場合、左脳が、ダメージを受けた右脳にチェックされることなく、その葛藤を論理によって一刀両断に解決するというのである。つまり、その人物は替え玉であるに違いない、と左脳は判断するのである。

 「しかも、現実をチェックして、善悪の判断をする大脳皮質のエリアに別のダメージがあるならば、その間違いを訂正するすべはありません」と、デビンスキー博士は言う。

 理学療法をうけたあの朝のような天気の良い日には、アダムの情動の中枢は脳の活動する回路に参加しているようだった。鏡をじっと見つめながら、彼の微笑みは不安な微笑みからいたずらっぽい微笑みに変わり、彼は質問に答えた。

 「僕かな?」と彼は言った。



 兄弟、友人、息子

 
 あの事故の後、アダムの弟のニックはできるだけ手助けをするようになった。手助けをする一つの方法は、ただ単にまた兄弟として振舞うことです、と専門家は言う。ニックはできるだけのことをした。

 「この前、僕は、台所の床にアダムを横にして、アイスキューブを頭上にもっていって、水を額に一滴ずつたらしたんだ。中国の水責めの拷問(Chinese Water Torture)みたいにね」とニックは言った。「そしたらびっくりして、めちゃくちゃ怒っていたよ。でも、その後は快適な一日だったよ」。


 どんな治療や運動をすれば、損傷した脳が一貫したアイデンティティーを維持したり再構築できるようになるのか――つまり、神経回路を作っていけるようになるのかは、誰にも判っていない。しかし脳はそれができるという点で、神経学者の意見はおおむね一致している。最近の研究が示唆しているように、脳には「可塑性がある」。損傷を受けていないエリアが、近くの健全な脳組織を動員して、ダメージを受けた部分を迂回して、失われた機能の埋め合わせをすることができるのである。

 
 しかし、それは努力なしに生ずるようことはないようだ。裏ルートを使って新たに信号のデータを送るには、脳はある程度のデータ量を必要とする、と科学者は言う。脳は、問題を解決したり、社会的な期待に応えたり、活動的である必要がある。

 
 最近のいくつかの実験によると、重大な脳の損傷から回復途上にある人にとって、その脳が失ったもの、つまりなじんだ社会的環境との接触をリハビリの中心にすることは有望な手段であるのだという。2005年の脳スキャンに関するとある研究で、ニューヨークの神経学者は、時折命令に反応することしかできない重大な脳損傷を抱えた二人の患者に愛する人の声を聞かせたところ、その脳の広い範囲にいきわたっている神経回路が活性化したことを発見した。去年、スペインのとあるチームはその発見を再現できた。


 痴呆症の研究では、高齢にいたるまで頭脳明晰だった人の中にもアルツハイマー病に蝕まれている脳をもっている人がいることを研究者は発見した。そういう人の多くは最後まで社交的で、頭を使う定期的なカードゲームや友人たちとの歓談に参加している。


 ニュージャージー州のケスラーでの最初の半年間、無言で横になりながら、アダムは多くの聞きなれた声を耳にしていた。母親は毎日彼の側にいた。父親は、週末になるとニューヨークから4時間かけて車でやって来た。彼のガールフレンドのサラ・ヒューイは、隔週の週末ごとに、彼女の母親と一緒に訪ねてきた。友人たちはグループでやって来た。そのうちに、彼は問いかけや命令に対する答えとして親指を動かせるようになった――それは、最低限の意識活動ができる段階に入ったことの確かな合図であり、完全な意識を取り戻す上で必要な移行期だった。「最初は、とても辛かったですね」と、彼の父であるマイク・リパックは言う。「どうにかして彼の脳を活性化できればと願うしかないのですから」(つづく)。 
 






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